処方ガイド ·

無料の香水処方ではじめての香水づくり — Heliotrope Veilでたどる完全ガイド

無料の香水処方はどこで手に入れ、どう読み、何で作ればよいのでしょう。登録なしでPDFを受け取れる無料処方Heliotrope Veilを手に、原料の準備、希釈、計量、加える順番、熟成、香りの記録、よくある質問まで、最初から最後までたどります。

A blank sheet of cream paper with a wooden pencil, a curl of lemon peel and a small round glass flask of pale liquid on an ivory table

香水を自分で作ってみたいと思ったとき、多くの方がまず「無料 香水 処方」と検索します。ところが見つかるのは、いくつかの原料を感覚で混ぜてみようという記事や、誰が作ったのかわからない数字の一覧であることがほとんどです。そのとおりに作ってみたら期待とまったく違う香りになり、やめてしまう方も少なくありません。最初にぶつかる壁は原料ではなく、「何をどれだけ混ぜればいいのか」という問いです。

この記事は、その問いに一般論ではなく実際の処方ひとつで答えます。GrassAccordのオープンライブラリにある無料の香水処方Heliotrope Veilを手に、処方を受け取った瞬間から最初の一本を仕上げ、次の処方へ進むまで、調香台の上ですることを順番に書きました。Heliotrope Veilは無料処方の中でただひとつ、登録なしで誰でもPDFを受け取れる公開見本です。読む前に商品ページからPDFをダウンロードし、手元に広げておいてください。処方の数字はこの記事には載せず、PDFを見ながら一緒に確認します。

始める前に、ひとつだけ心に留めておいてください。最初の香水が思ったとおりにならないのは普通のことです。調香を始めたばかりの方の多くは、原料を無駄にしないか、失敗しないかと心配して、始めるのを先延ばしにします。けれども最初の一本は、作品というより鼻と手を慣らす練習です。少しずれても記録さえ残っていれば、その一本は失敗ではなく次の処方の出発点になります。

香水の処方とは何でしょうか

香水の処方(フォーミュラ)とは、香水を構成する原料と、それぞれの量を記した設計図です。調香師は原料ひとつひとつの香り、揮発する速さ、ほかの原料と出会ったときの変化を計算して処方を組みます。同じ原料を使っても量が少し変わるだけでまったく別の香りになるため、処方は香水の核となる資産です。

よい処方には数字だけが書かれているわけではありません。原料名とあわせて原料を特定できるCAS番号、原液か希釈したものか、どの順番で加えるか、完成した濃縮液をどの比率で希釈して使うか、地域ごとに規制のある原料はどれか、まで書かれていてはじめて、初めて作る人も同じ結果に近づけます。数字の一覧だけの処方が失敗しやすい理由はここにあります。

調香を始めたばかりの方がよく混同するのが、「濃縮液」と「完成した香水」の違いです。処方表が示すのは、たいてい香料原料だけを集めた濃縮液です。濃縮液はそのまま肌に使うものではなく、香水用アルコールやシャンプーなどのベースに決まった比率で混ぜて、はじめて製品になります。ですからよい処方は、濃縮液の作り方とあわせて、その濃縮液をどこにどれだけ入れるかまで教えてくれます。Heliotrope Veilも、濃縮液の処方表と用途別の使用量を分けて記しています。

無料の香水処方は、何を見て選べばよいでしょうか

インターネットで無料の処方を探すときは、次の五つを確認してみてください。

  • 誰が作り、実際に試したのか: 作り手がはっきりしていて、実際に混ぜてみた処方かどうか。
  • 原料を正確に特定できるか: 原料名だけでなく、CAS番号やグレードまで書かれているか。
  • 希釈と加える順番が書かれているか: 少量しか入らない原料や固体原料をどう扱うか。
  • 使用量と規制の案内があるか: 香水として使うときと洗い流す製品に使うときでそれぞれどれだけ入れるか、アレルゲン表示の対象になる原料はどれか。
  • 何を学ぶ処方なのか説明があるか: 作っているあいだに何を嗅ぎ取ればよいのか。

GrassAccordの無料処方PDFは、この五つをすべて盛り込むように作っています。Heliotrope VeilのPDFも、調香ノート、時間による変化、推奨使用量、香りの構造、処方表、スケールアップ、作り方、原料ノート、アレルゲン確認の順に構成されています。

なぜHeliotrope Veilから始めるのでしょうか

Heliotrope Veilは「バニラの霧の下のパウダリーなアイリス」という副題のとおり、フローラル・パウダリー・アンバー系の香りです。最初の香水に選んだ理由は三つあります。

  • 難易度がもっとも易しい段階(Foundation)に属します。
  • アルコール香水としてすぐに使え、シャンプー・ボディウォッシュ・ハンドウォッシュ用の使用量もあわせて記されています。
  • 学ぶことがはっきりしています。最初に感じる香りと長く残る香りがなぜ違うのかを、ひとつの処方の中で直接確かめられます。

調香ノートを短くまとめると次のとおりです。最初のひと息は、レモンの皮、ホワイトグレープフルーツの乾いたほろ苦さ、紅茶のようなベルガモットの明るさです。数分たつと、乾いたオリス根のようなアイリス、アーモンドのような甘さのヘリオトロープ、澄んだジャスミンのひと筋が続きます。そしてパウダーのヴェールが降り、クマリンやトンカのようなバルサム、バニラの霧、清潔なムスクと乾いたアンバーが、香りを肌の近くにとどめます。

原料の役割で処方を読む

処方表を初めて見ると、原料名が長く並んでいて途方に暮れます。そんなときは原料を役割ごとにまとめて見ると、構造がひと目でわかります。Heliotrope Veilの18種類の原料は、大きく五つのグループに分かれます。

  • 最初の光、シトラス: ベルガモット、レモン、ホワイトグレープフルーツ、シトラール。最初の数分を明るく開き、いちばん先に消えていきます。
  • 橋、やわらかな花: リナロール、酢酸リナリル、エチルリナロール。シトラスをパウダーへとつなぐ架け橋です。
  • 顔、パウダリーなアイリス: イラリア トータルとヘリオトロピン、そして空間を開くヘディオン。この香りの名前になる部分です。
  • ぬくもり、バルサムとバニラ: クマリン、フロレックス、エチルバニリン、そしてパウダーが乾ききらないようにするガンマ-ウンデカラクトン。
  • 土台、ムスクとウッド: ハバノリド、ガラクソリド、サンダルウッド ギブコ 203、セタロックス。何時間も香りを肌の近くにとどめます。

このようにまとめておくと、香りを嗅ぐときにも「いまはどのグループが語っているのか」を確かめられます。ほかの処方を読むときにも同じ方法が使えます。初めて見る処方でも、原料を役割ごとに五つほどのグループに分けてみると、その処方が何を長く残すように設計されているのかが見えてきます。

ダイアグラム

18種類の原料は五つのグループで読める

下へ行くほど遅れて現れ、長く残る

最初の数分
最初の光 — シトラスベルガモット・レモン・ホワイトグレープフルーツ・シトラール
数分〜1時間
橋 — やわらかな花リナロール・酢酸リナリル・エチルリナロール
1時間〜
顔 — パウダリーなアイリスイラリア トータル・ヘリオトロピン・ヘディオン
数時間
ぬくもり — バルサムとバニラクマリン・フロレックス・エチルバニリン・ガンマ-ウンデカラクトン
翌日まで
土台 — ムスクとウッドハバノリド・ガラクソリド・サンダルウッド ギブコ 203・セタロックス

Heliotrope Veilの原料ノート基準・時間はムエット上のおおよその流れ/GrassAccord作成

全体のスケジュールをひと目で

初めて作る方がいちばん気になるのは「どれくらいかかるのか」です。Heliotrope Veilは全部で約2週間半かかります。手を動かすのは3日だけで、残りは待つ時間です。

  • 1日目: 処方表を読む、原料を準備する、固体原料の溶液を作る(24時間置きます)、原料をひとつずつ嗅ぐ。
  • 2日目: 計量して順番どおりに混ぜる。濃縮液を48時間休ませます。
  • 4日目: 濃縮液をアルコールで希釈する。ここから2週間の熟成が始まります。
  • 約2週間後: 香りを確かめて判断する。濁っていれば冷やしてからろ過する。

スケジュールグラフ

手を動かすのは三日、あとは待つだけ

Heliotrope Veil 50g基準・初日から判断する日まで約2週間半

処方表を読む・原料を準備する
固体原料の溶液を作る(24時間置く)
原料をひとつずつ嗅ぐ
計量して順番どおりに混ぜる
濃縮液を休ませる(48時間)
アルコールで希釈・2週間の熟成
香りを確かめて判断する
1日目4日目11日目約2週間半

熟成期間は処方PDF「調合の手順」による/GrassAccord作成

ステップ1: 処方表を最初から最後まで読む

計量を始める前に、PDFを最初から最後まで一度読んでください。特に四つの点を見ます。

レッスン。 この処方で学ぶことは次のとおりです。処方の4分の1を超える量がベルガモット・レモン・グレープフルーツといったシトラスなのに、この香りはシトラスの香水ではありません。シトラスは1時間以内に薄れ、5分の1近くを占めるメチルイオノンがヘリオトロピン・クマリン・バニラとともに残ってパウダーになります。最初に感じる香りと記憶に残る香りは違うことがあるということ、これを自分の鼻で確かめるのが今回の実習の目標です。

処方の基準。 この処方は全体を1,000パーツ(重量基準)で記しています。ご自身で計算する必要はありません。「スケールアップ」の欄に10g・50g・100gに換算した重さがすでにありますので、最初は50gの欄を使ってください。10gの欄もありますが、ごく少量しか入らない原料は10gだと0.1gを下回り、0.01gのはかりでも誤差が10%を超えやすくなります。原料を節約しようと量を減らすと、かえって処方表と違う香りになります。どうしても負担なら、20g未満にはしないでください。

希釈の表示。 処方表の「希釈」欄を見ると、原液ではない原料が三つあります。エチルバニリンとセタロックスはヘディオンに10%で溶かした溶液として加え、ガラクソリドは販売形態のままIPMに50%のものを使います。希釈した原料と原液を取り違えると香りがまったく変わるので、この3行にあらかじめ印をつけておいてください。

原料ノート。 18種類の原料それぞれに、香りの性格、この処方での役割、原料辞典のアドレスが書かれています。初めて見る名前はGrassAccordの原料辞典で調べておけば、計量中に慌てずにすみます。

ステップ2: 原料の準備 — 名前よりCAS番号

同じ原料が会社ごとに違う名前で売られていることはよくあります。原料を買うときは、名前とあわせてCAS番号を照らし合わせる習慣をつけてください。この処方でもいくつかがそうです。

  • イラリア トータルは、メチルイオノンという名前でも売られています。
  • ヘディオンはメチルジヒドロジャスモネートです。
  • セタロックスはアンブロキシドとも呼ばれます。
  • ヘリオトロピンはピペロナールです。
  • ガラクソリドはヘキサメチルインダノピランです。

グレードを確認すべき原料もあります。ベルガモットはフロクマリンを取り除いたFCFグレード、ホワイトグレープフルーツもフロクマリンを減らしたグレードを使うようPDFに書かれています。肌に触れる製品に適したグレードです。サンダルウッド ギブコ 203は単一の原料ではなく、サンダルウッドオイルを使わずにサンダルウッドを思わせるように作ったベースなので、組成はサプライヤーの資料に従います。

正直に申し上げると、最初から18種類すべてをそろえるには費用がかかります。原料ごとに最小販売単位があるため、処方に必要な量よりずっと多く買うことになります。そこで最初は、原料ごとに数グラム単位の少量で買うことをおすすめします。50gの濃縮液を作るのに、ほとんどの原料は数グラムあれば足ります。そしてリナロール・ヘディオン・クマリン・バニリン類・ムスクのように、この処方に入っている原料の多くはほかの処方でもよく使われる基本原料なので、次の処方からは新たに買う原料が急速に減っていきます。それでも最初の処方は、ひとつも欠かさず処方表どおりに作ってみることをおすすめします。原料をひとつ抜いて作った結果では、レッスンを確かめられないからです。

ステップ3: 香水づくりの道具をそろえる

高価な機材は必要ありません。最初はこれだけで十分です。

  • 電子はかり: 0.01g単位まで量れるもの。50gで作っても、いちばん少ない原料は0.35gなので、0.1g単位のはかりでは誤差が大きすぎます。
  • 小さなガラス瓶とスポイト: 原料ごとに別のスポイトを使います。ひとつで複数の原料を移すと原料どうしが混ざります。プラスチックを傷めたり香りを吸ったりする原料もあるので、ガラスが安全です。
  • 香水用エタノールと、温められるぬるま湯の器(固体原料を溶かすとき)。家にある消毒用アルコールは使わないでください。消毒用によく使われるイソプロピルアルコールはにおいが強く、香りを覆ってしまいます。
  • ラベルとペン: すべての瓶に原料名・濃度・溶剤・日付を貼ります。
  • ムエット、鉛筆、記録ノート。
  • 手袋と換気のよい場所。

安全面もあらかじめ整えておきます。原料は肌や目に触れないように扱い、原料ごとに添付される安全データシートを読んでおきます。原液の香りは瓶に鼻を近づけず、ムエットにつけて嗅ぎます。エタノールと原料は火の近くに置かず、子どもやペットの手が届かない場所に保管します。

原料そのものの保管も香りを左右します。特にシトラスオイルは空気と光に触れると早く酸化し、酸化したオイルは香りが濁るだけでなく、肌への刺激が強くなることがあります。シトラスオイルは空気が少なく残るよう小さな瓶に分けてしっかり閉め、涼しく暗い場所、できれば冷蔵庫に置いてください。冷蔵庫から出した瓶は、室温に戻ってから開けてください。冷えた瓶をすぐに開けると結露して、原料に水が入ります。ほかの原料も、ふたを開けたまま作業しない習慣が大切です。

ステップ4: 固体原料を溶かし、希釈溶液を作る

この処方で最初に出会う山場は固体原料です。エチルバニリン、セタロックス、クマリン、ヘリオトロピンは粉末や結晶の形をしています。

エチルバニリンとセタロックスは、ヘディオンで10%の溶液にします。原料1gにヘディオン9g、これを2瓶作ります。どちらも溶けにくいので、ぬるま湯に瓶を軽くつけて温め、完全に澄むまで待ってから24時間置きます。底に結晶が残っていれば、まだ溶けきっていません。

ここでひとつ学べることがあります。ヘディオンはこの処方で、原料であると同時に溶剤でもあります。ふたつの溶液に含まれるヘディオンまで足すと、処方全体のヘディオンは本来の欄に書かれた量より増え、その計算はPDFの香りの構造の欄に書かれています。無香の溶剤ではなく香りのある原料を溶剤に選んだのは、ヘディオンの薄く軽やかなジャスミンが、パウダーがほこりのように重くならないよう空間を開いてくれるからです。希釈に使う溶剤も香りの一部になりうること、それは処方表を見るだけでは気づきにくい調香のディテールです。

ステップ5: 混ぜる前に原料をひとつずつ嗅ぐ

調香を教える人なら、計量より先にさせることがあります。原料をひとつずつ嗅ぐことです。ムエット18枚に原料名を鉛筆で書き、原料ごとに1枚ずつつけて香りを嗅ぎ、思い浮かぶ言葉をノートに書きます。

嗅ぐときは、原液よりもアルコールで10%ほどに希釈したものをおすすめします。原液は強すぎて鼻がすぐに疲れ、原料の本当の姿がかえって隠れてしまいます。ただし、すべての原料を必ず10%にそろえる必要はありません。ガンマ-ウンデカラクトンのようにとても強い原料は1%ほどにさらに薄めて嗅ぐと姿が見え、ムスクのように弱い原料は原液や濃いめの希釈で嗅いでもかまいません。クマリンやヘリオトロピンのような粉末の原料はムエットにつけられないので、アルコールに少し溶かして嗅ぎ、エチルバニリンとセタロックスは前のステップで作ったヘディオン溶液で嗅げば大丈夫です。

この工程を飛ばすと、完成した香りの中で何が何なのか見分けられません。反対に原料を先に嗅いでおけば、混ぜたあとに香りを確かめるとき、「このアーモンドのような甘さはヘリオトロピンだ」「この乾いた光はセタロックスだ」と言い当てられます。先ほど分けた五つのグループの順に嗅ぐと、なおよいでしょう。ムエットは捨てずに片側に立てておいてください。数時間後にもう一度嗅ぐと、原料ごとに残る時間がどれほど違うかがすぐにわかります。

ステップ6: 滴ではなく重さで計量する

計量は滴の数ではなく重さで行います。一滴の大きさは原料の粘度やスポイトによって変わるため、同じ十滴でも原料ごとに量が違います。重さで量ってこそ、同じ処方をもう一度作れます。

計量の手順は次のとおりです。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4

目標より少し多く入ってしまったら、取り除かずにその数字をそのまま書いておいてください。取り除こうとすると誤差がさらに大きくなりますし、あとで香りが変わった理由を探すとき、この記録が答えになります。ガンマ-ウンデカラクトンのようにとても強い原料は、特にゆっくり加えます。桃の皮の香りが少し多いだけで、パウダー全体がフルーツ側に傾きます。

ステップ7: 加える順番を守る

加える順番はPDFの「作り方」に従います。原理は、溶かす必要のある固体を最初に溶かしておくことです。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5

この順番の本当の理由は、固体を先に完全に溶かすためです。クマリンとヘリオトロピンは、ほかの原料がたくさん入ったあとに加えると溶けにくく、結晶が残りやすくなります。溶かすために瓶を温めたり長く混ぜたりするとき、軽いシトラスや花の原料がまだ入っていなければ、そのぶん負担が少なくなります。ふたを閉めて作業するなら、数十分のあいだにシトラスが大きく飛ぶことはないので、順番が少しずれたからといって失敗を心配する必要はありません。ただし、粉末のままの固体を最後に加えることだけは避けてください。5番で最後に加えるエチルバニリンとセタロックスは、すでにヘディオンに完全に溶かした溶液なので大丈夫です。まさにそのために、このふたつの原料をあらかじめ溶液にしておくのです。

フローチャート

固体を先に溶かし、軽いものは後に

加える順番は五段階・最後の二つはすでに溶かした溶液なので問題なし

加える順番
① クマリン・ヘリオトロピンをイラリア トータル・ヘディオンに溶かす
→
② ムスク・ウッド・バルサム・ピーチ
→
③ 花の原料とシトラール
→
④ シトラスオイル
→
⑤ あらかじめ作ったふたつの溶液

処方PDF「調合の手順」による/GrassAccord作成

ステップ8: 休ませ、希釈し、2週間熟成する

熟成は2段階です。最初の段階は濃縮液を休ませることです。すべて加えたらやさしく混ぜ、ふたを閉めて涼しく暗い場所に48時間置きます。原料どうしがまずなじむ時間です。

香水にするときは、濃縮液15gを香水用アルコール85gに混ぜます。濃縮液が15%入ることになり、市販の香水で一般にオードパルファムと呼ばれる範囲にあたります。国やブランドによって基準が少しずつ違うので、おおよその目安としてとらえてください。50gの濃縮液をすべて香水にする必要はありません。たとえば濃縮液7.5gにアルコール42.5gで50gの香水が1本でき、残った濃縮液はしっかり閉めて次に使います。シャンプー・ボディウォッシュ・ハンドウォッシュには、濃縮液1gを無香のベース99gに混ぜます。同じ濃縮液が用途によってどれほど違う比率で希釈されるかにも注目してみてください。

2段階目は、希釈したあとの熟成です。香水は2週間、ウォッシュは1週間熟成させてから判断してください。混ぜた直後の香りは完成した香りではありません。ばらばらだった原料がひとつの香りにまとまり、とがっていた部分が丸くなるには時間が必要です。熟成中に瓶を頻繁に開けると軽いシトラスが飛んでしまうので、香りを確かめるときだけ少し開けて、すぐに閉めます。

熟成を終えた香水が少し濁って見えることがあります。シトラスオイルのような天然原料に含まれる成分がアルコールに溶けにくいために起こることで、失敗ではありません。多くの調香師は、そうしたとき香水を1日ほど冷蔵庫で冷やしてから、実験用のろ紙でこして澄ませます。コーヒーフィルターも使えなくはありませんが、香りを少し吸うことがあるので、ろ紙のほうが適しています。Heliotrope VeilのPDFにある手順ではなく一般的な方法ですので、澄み具合が気になるときだけ試してください。

ステップ9: 香りを確かめ、記録する

PDFの「時間による変化」の欄には、ムエット基準でシトラスの光、アイリス・ヘリオトロープのパウダー、トンカ・バニラ、ムスク・サンダルウッド・アンバーが順に続いていく図があります。測定値ではなく調香ノートを図にしたものですので、ご自身の鼻で確かめる番です。

ムエットにつけた直後、10分後、1時間後、4時間後、翌日の香りを短く書きます。「爽やか、少し苦い」「アーモンドのようなパウダー」のように、思い浮かぶ言葉で十分です。最初は表現がぎこちなくてもかまいません。記録が積み重なると、自分の鼻の言葉が生まれます。そして、レッスンの問いに答えてみてください。

  • 最初の数分、シトラスはどれくらい大きく感じられますか。
  • 1時間後もシトラスは残っていますか。それともパウダーが落ち着いていますか。
  • 翌日、ムエットに残っているのは何ですか。

記録ノートは1ページにこうまとめておくと、あとで比べやすくなります。

  • いちばん上: 処方名、作った日付、作った量、希釈比率。
  • 計量の記録: 原料ごとの目標の重さと、実際に入った重さ。
  • 香りの記録: 日付・時間ごとに浮かんだ言葉と、レッスンの問いへの答え。
  • いちばん下: 次に変えてみたいことをひとつ。

レッスンをもっとはっきり見るための小さな実験もあります。完成した香水とあわせて、ムエット2枚にベルガモットオイルとイラリア トータルをそれぞれ別につけておいてください。そして同じ時間ごとに3枚を並べて嗅ぎます。時間がたつにつれて、ベルガモットのムエットははっきり弱くなり、イラリア トータルのムエットは長く持ちこたえるのがわかるでしょう。完成した香水のムエットに何が残ったのかが、その2枚のあいだで説明されます。処方を変えずにレッスンを確かめる方法です。

量としてはいちばん多いシトラスが先に消え、それより少ないパウダーが最後まで残るなら、レッスンを手で学んだことになります。

鼻が疲れると香りを感じにくくなるので、一度にたくさんのムエットを嗅がず、ときどき休んでください。そして肌の確認(下の「使う前に」)を終えたら、肌でも嗅いでみてください。同じ香りでも肌では体温のために早く開き、残る時間や印象がムエットとは変わります。ムエットの記録の隣に、肌の記録を並べて書いておくとよいでしょう。

気に入らない部分があった場合は、処方を変える前に同じ処方をもう一度作り、結果が同じかどうかを確かめてください。計量ミスなのか処方の性格なのかを見分けられてはじめて、直すべきところが見つかります。

ドットマトリクス

時間とともに主役が変わる

ムエット上で各グループがはっきりする時・塗り=はっきり・枠=かすか

グループすぐ10分1時間4時間翌日
シトラスすぐ薄れる
やわらかな花
パウダリーなアイリス★ この香りの顔
バルサムとバニラ
ムスクとウッド

処方PDF「香りの移ろい」の図を移したもの・測定値ではなく調香ノート/GrassAccord作成

初めて作った人がよく戸惑う瞬間

調香を始めたばかりの方がよく経験する場面があります。あらかじめ知っておけば戸惑わずにすみ、判断を誤ってよい一本を捨ててしまうことも減ります。

「アルコールに混ぜたらシトラスしか香りません。」 濃縮液で嗅いだときはバランスがとれていたのに、アルコールで希釈するとレモンとベルガモットだけがぐっと立ち上がることはよくあります。Heliotrope Veilでは特にそうです。シトラスが量としていちばん多いグループだからです。失敗ではなく、この処方がもともと見せようとしている場面で、熟成を経て時間がたてばパウダーが落ち着きます。2週間待ってから、そしてムエットで数時間たってから、もう一度判断してください。

「数日で香りが弱くなりました。」 最初の数日は長く続いていた香りが、急にすぐ消えるように感じられることがあります。香りが傷んだ場合より、同じ香りを嗅ぎ続けて自分の鼻がその香りに疲れた場合のほうがはるかに多いのです。だめになったと判断する前に1日ほど香りから離れ、清潔な肌と新しいムエットでもう一度嗅いでみてください。

「説明と香りが違います。」 原料ノートにある「アーモンドのようなパウダー」「乾いたアンバー」といった言葉は、香りを言葉に置き換えたものです。ご自身の鼻には違って感じられることがあり、初めて嗅ぐ原料ほどそうです。原料が間違って届いたと決めつける前に、希釈して時間をおいてもう一度嗅ぎ、ご自身の言葉で記録してください。その違いを書き留めることが、そのまま鼻を育てる過程です。

「ムスクが感じられません。」 特定のムスクを感じ取りにくい人は珍しくありません。ハバノリドやガラクソリドがほとんど感じられないなら、原料が弱いからでも処方が欠けているからでもないかもしれません。ご自身の鼻ではとらえにくくても、香りを肌の近くにとどめる役目はきちんと果たしています。翌日のムエットに何が残っているかで確かめてみてください。

「偶然うまくできたのに、もう一度作れません。」 記録せずに原料を少し足したら、その回がいちばんよかったという話は、調香を始めたばかりの方にとても多いものです。ですから計量の記録は、面倒でも毎回残します。よい偶然は、記録があるときにだけ再現できます。

完成した香水の保管

熟成を終えた香水は、光と熱を避けて保管します。日の当たる窓辺や浴室のように、温度や湿度がよく変わる場所は避けてください。瓶はしっかり閉め、空気がたくさん入った大きな瓶より、量に合った小さな瓶がよいでしょう。瓶の中の空気が多いほど、軽い原料が飛んで香りが変わりやすくなります。

エチルバニリンを含む処方は、時間がたつと色が少し濃くなることがあるとPDFの原料ノートに書かれています。色が変わっても香りが同じなら、自然な変化です。保管している香水も数週間、数か月おきにムエットにつけて記録しておくと、同じ香りが時間とともにどう熟していくかを見ることができます。

使う前に: 規制と肌の確認

手作りの香水を使ったり贈ったりする前に、知っておきたい規制があります。Heliotrope VeilのPDFの最後には、EU基準のアレルゲン表示対象の原料と、香水15%、ウォッシュ1%に希釈したときにそれぞれ表示が必要かどうかがまとめられています。シトラールのようにEUで使用上限のある原料も、この使用量では上限の範囲内に収まると書かれています。国によって基準が違うので、その国の基準を原料辞典と公式資料でもう一度確認してください。

販売は別の問題です。手作りの香水を販売するには、アレルゲン表示だけでは足りず、ほとんどの国で化粧品として守るべき規定(製品の安全性評価、責任者や販売者の登録、表示事項など)が別にあります。販売を考えている場合は、まずその国の化粧品販売の規定を確認してください。

そして、初めて作った香水を肌に使う前には、腕の内側に少し塗って1日ほど様子を見る肌の確認をしてください。赤くなったりかゆくなったりしたら使いません。贈るときも、受け取る方にこの確認をあわせてすすめるとよいでしょう。

初めて作るときによくある失敗

  • 希釈溶液と原液を取り違える: この処方では、エチルバニリン・セタロックスの溶液とガラクソリドが該当します。ラベルが答えです。
  • 固体原料が溶けきらないまま加える: 底に沈んだ結晶は、香りに入っていないのと同じです。
  • スポイトひとつで複数の原料を移す: 小さな汚染も香りに残ります。
  • 滴で計量する: 同じ滴数でも原料ごとに重さが違います。
  • 粉末のままの固体を最後に加える: ほかの原料がたくさん入ったあとでは溶けにくく、結晶が残ります。あらかじめ溶かした溶液なら大丈夫です。
  • 原料をひとつずつ嗅がずにすぐ混ぜる: 完成した香りの中で何が何なのか見分けられません。
  • 濁っているからと捨てる: 天然オイルではよくあることです。冷やしてこしてみてください。
  • 混ぜてすぐに判断する: 2週間待ってください。
  • 記録せずに作る: うまくいった理由も、うまくいかなかった理由も見つけられなくなります。

無料の香水処方、よくある質問

本当に無料ですか?

Heliotrope Veilの公開見本は、登録なしで誰でもPDFを受け取れます。ほかのVetiver Membership処方は会員にクーポンでお渡ししており、クーポンで受け取れば$0です。登録は無料で、登録初日にはクーポンを最大6枚($210相当)まで受け取れます。

調香を一度もしたことがなくても大丈夫ですか?

大丈夫です。Heliotrope Veilはもっとも易しい段階の処方で、PDFに加える順番と使用量がすべて書かれています。この記事の順番どおりに進めれば、初めてでも完成させられます。

原料はどこで買えばよいですか?

香料原料を扱う専門の販売店で購入できます。買うときは名前よりも、CAS番号とグレード(ベルガモットFCFなど)を照らし合わせてください。原料ごとに、原料辞典のページで香りの性格と規制をあらかじめ確認できます。

どれくらいの量を作ればよいですか?

最初はPDFの50gの欄で作ってください。10gでは、ごく少量しか入らない原料の誤差が大きくなりすぎます。50gの濃縮液は香水15%で使えば何本も作れる量なので、一部だけを希釈して残りは保管しておけば大丈夫です。

熟成は必ず必要ですか?

はい。混ぜた直後の香りは、原料どうしがまだなじんでいない状態です。香水は2週間、ウォッシュは1週間待ってから判断してください。

ほかの製品にも使えますか?

Heliotrope Veilはアルコール香水のほか、シャンプー・ボディウォッシュ・ハンドウォッシュのような洗い流す製品にも使え、使用量が別に記されています。ほかの製品に使うときは、その製品に合った使用量と規制をまず確認してください。

香りがPDFの説明と違って感じられたら、どうすればよいですか?

まず、熟成期間を満たしたか、希釈溶液と原液を取り違えていないか、計量の記録で大きく多く入った原料がないかを確認してください。原料の購入先やグレードが違っても香りは変わることがあります。同じ処方をもう一度作って結果が同じなら、その違いを記録しておくことも、よい勉強になります。

処方を自分の好みで変えてもよいですか?

もちろんです。ただ、最初は処方表どおりに作って基準をつかみ、2回目から一度にひとつずつ変えることをおすすめします。基準があってこそ、変えたことが何を変えたのかがわかります。

公開見本のPDFをほかの人と分けてもよいですか?

Heliotrope Veilの公開見本は、誰でも受け取れるように公開している処方です。一緒に調香を始めたいご友人がいれば、商品ページのアドレスを教えてあげてください。いつでも最新版を受け取れます。

次の処方へ

Heliotrope Veilを処方どおりに作れたら、次はほかの処方を並べて作ってみることです。ふたつの処方を一緒に嗅ぐと、原料がひとつ変わると全体がどう変わるのかが見えはじめます。原料辞典の原料ページには、その原料が代表原料として使われているVetiver Membership処方が表示されますので、今回気に入った原料から出発して次の処方を選んでもよいでしょう。

何度か処方どおりに作ってみたあとは、ご自身の記録をもとに小さな変化を加えてみることができます。そのときは、今回書いた記録ノートが基準点になります。最初に作った回の計量の記録と香りの記録があってこそ、変えた回が本当によくなったのかを比べられます。

香りは万国共通の言葉です。どの言葉で考えていても、鼻とはかりと記録ノート、そしてよく作られた処方表が一枚あれば、最初の香水は今日から始められます。

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